心因性の皮膚炎

多くの人は、動物が体を異常に舐めたり、足でガリガリしてる様子を見たら、それを「痒み」と表現するでしょう。
しかし、獣医の皮膚科では、この動物のいかにも痒そうな行動を正確に表現する場合には「痒み」とは言わず、「痒み行動」と呼びます。
なぜ、わざわざそんな回りくどい言い方をするのか・・・

それは、

「痒そうにしているけど、本当は痒くないかもしれないから」

です。

動物が痒そうにしている行動には
・本当に痒くて体を掻いたり、舐めている(大部分はこのケース)
・痒くないけどストレス等で体を体を掻いたり、舐めている(問題行動)
があるため、
「痒そうにしている」≠「痒み」
「痒そうにしている」=「痒み」または「ストレス等」=この2つまとめて「痒み行動」と表現しよう!
ということになっています。

さてストレスが原因で発症する皮膚病を「心因性の皮膚炎」と呼んでいますが、この皮膚病の治療は皮膚科というよりも行動学が担当領域になると思いますが、「痒み止めが効かない謎の皮膚病」という症状で皮膚科に紹介されてくる機会はよくあります。

今回は、そんな「心因性の皮膚炎」が疑われたトイ・プードルの皮膚病について紹介します。
飼い主さんのお話では、突然、右前足をかじるようになったとの事でした。

 

初診時の状況
皮膚の表面に色素沈着といって黒いメラニン色素が沈着してますが、これは、この場所を相当しつこく舐めている証拠です。

 

このトイ・プードルは元々アレルギー性皮膚炎があって以前から痒み止めの薬を飲んでいました。

そのため、この皮膚炎の原因となった「痒み行動」が「アレルギーが悪化したことが原因による痒みなのか?」あるいは「痒みではなく問題行動なのか?」かで悩みましたが、普通、アレルギー性皮膚炎は左右対称に症状が出ることが多いはずなのに、反対側の左前足には症状が全く無いことが気になって、飼い主さんに色々お話を聞いていると、ちょうどこの症状が発症する前に、このトイ・プードルの生活環境に大きな変化があったことが判明しました。


これらの情報は、この皮膚病を「心因性の皮膚炎」と診断するのに十分な状況証拠だと判断し、「痒み止めの増量」は選択せず、「問題行動」に対する治療から開始しました。

 

治療から2か月後

舐める行動も減って、だいぶ毛も生えてきました。もうちょっとで完治です。

 

さて、この「心因性の皮膚炎」ですが、実は猫でも発症します。むしろ、私は犬よりも猫の方が多い印象があります。

下の写真の猫は、飼い主さんが新しく飼いはじめた猫との相性が悪く、その猫と同居してから徐々に背中の毛を舐めるようになって、毛が無くなってしまいました。

 

この猫のケースは脱毛の原因が「同居猫によるストレス」と明らかだったので、新入り猫とは違う部屋で飼ってもらったところ、無事に毛が生えてきました。

「心因性の皮膚炎」は遭遇する機会は少ないで、思わず見落としてしまいうやすい病気ですので、「痒み止めが効かない皮膚炎」という話が出た時は、少しでもこの病気を疑って、何度も繰り返して飼い主さんに何か生活環境の変化がなかったを尋ねるようにしていますので、もし、しつこいと思われたらごめなさい。